「なぁレナ、俺の為に味噌汁を作ってくれないか?」

 俺は正面きって、真摯な表情でレナに言った。



 後に俺、前原圭一はこの一言を激しく後悔するのだが…




ひぐらしのなく頃に 味噌汁の変 第一話





 事の発端は朝の食事にあった。


「あれ? 母さん、今日味噌汁はないの?」

 いつも楽しみにしている朝の食事。しかし、しかしだ。足りない、決定的な物が

足りない!

 そう、ご飯の次に大切なアレ――味噌汁が無いのだ!

「ごめんね圭一。急にお父さんの仕事で東京に行かなきゃならなくなったの。だから

ご飯もちょっと疎かになっちゃって。そんなに飲みたかったらインスタントのやつで

我慢して? ね?」

 そう言うと母さんはドタバタと準備に勤しむ。

「………そんな、馬鹿な」

 インスタントで我慢しろだと? 俺はそんな寂しい朝は嫌だ。何が悲しくて

あの色々な味を手軽に楽しめると思いきやその実、具だけしか違わなくて後は

同じ味の味噌汁のインスタントを飲まなければならないんだ!?

 俺はあの眠気を覚ましてくれて、濃密なのにさっぱりと絶妙な加減で構成された

あの「おふくろの味」的な味噌汁を飲みたかったのに!!

 いけない、このままでは……このままでは俺の精神に異常が!! あぁ!!

なんか後ろから足音が聞こえてくるようなそんな幻聴さえ聞こえる!!

「どうする…どうする………。―――ッ!! そうだ!」

 そうだよ、なんでこんな簡単な事に気付かなかったんだ!

 俺にはあの頼もしい仲間達が、部活メンバーがいるではないかッ!!

 ならば話は早い! くっ、くっくっくっくっくっ

「あーーーーっはっはっはっはっはっはああああ!!」




 と、いう訳で俺は昼飯の時間レナに告げたのだ。

「…………」

 しかしどういう事だろう。レナはあ然と口を開け、持っていた箸を落とした。

 周囲を見ると魅音、沙都子、梨花ちゃん、そして何故か学校に来ている詩音までも

時間が止まったかのように固まっていた。……はて?

「ななっ、なななな、ななっ」

「レナ?」

 突然レナが「ななっ」という言葉を続けて震える。顔は茹でたタコのように真っ赤だ。

「どうしたんだレナ?」

「何を言ってますのあなたはああああああああ!!?」

「うおっ!?」

 しかし答えたのは身を乗り出した沙都子だった。その大声で教室内がざわめく。

「な、なんだよお前。顔真っ赤にして大声で」

「け、けけっ、けけっ、圭ちゃん!? は、早い、早すぎるって!」

「魅音まで何だ!?」

 なんだ? なんだこの状況は。っていうか、早いって何が?

 そんな中、2人だけ笑っているのがいる。梨花ちゃんに詩音だ。しかし、そのにやにや

とした笑いは何処か気味が悪い。

「みー。圭一はホントに面白いのです」

「お姉、別に心配しなくてもいいから。絶対分かってないから」

「だ、だだ、だってぇ〜!」

 分からん。意味が分からん。こいつ等、一体何を驚いているんだ?

 それはともかく、レナだけがさっきから意味の分からない言葉を繰り返している。顔は

真っ赤で、一体どうしてしまったんだ?

「そ、そそ、そのっ、レ、レナで良ければ…つ、作っても…いい、かな、かな…?」


ズガーーーーーン!!


 何だ? 何かみんなが雷に打たれたかのように固まった。魅音、沙都子、それに

梨花ちゃんに詩音までもだ。しかし、そんな事はどうでもよかった。

「そうか! いやー、嬉しいぜレナ! じゃあ明日の朝、作りにきてくれ」

「えぇっ!? い、いきなり明日から…」

「そうなんだよ。親父達が突然今日から仕事で東京に行っちまって。それで今日

味噌汁が飲めなくてさぁ。いやー、悪いなホントに」





「「………はい?」」

 突然、空気が変わった。何だろう、皆さん、物凄く殺気だっていらっしゃる。

「け、圭一くん? 確認してもいいかな、かな?」

「あ、あぁ」

 怖い。レナさん、あなた顔を引きつらせて笑いながら目は鬼のようなんですけど。

 いや、違う。レナだけじゃない。みんな、鬼のような目を……

「おじさまとおばさまが、仕事で東京に行って、朝にお味噌汁が飲めなかったから

私に作らせようと…そういう事…だよね、よね?」

「そ、そうだ…です、はい」

 あれ? あれれ? 何かそれってかなり横暴な事のような…。って、そうじゃん!

俺って何様!?

「お、おい、レナ! レナ…さん? あ、あれ? 沙都子…さん? 何やら物騒な物を

レナさんに手渡して……ちょ、う、嘘、嘘だろ? ちょ―――」




  現在、文章に出来ない事が繰り広げられています。しばらくお待ち下さい








「ほんっとに、圭ちゃんってデリカシーがないよね!!」

「はひ」

「今度こんな事になったらぶち撒けるからなぁ、あぁ!?」

「はひ」

 園崎姉妹に怒られる。ぼこぼこにされて声がまともに出ない。

「レディに失礼ですわ」

「まっはふでふ(全くです)」

 倒れ伏して、沙都子に見下されながら俺は反論も出来ない。

「圭一」

「りひゃひゃん(梨花ちゃん)」

 梨花ちゃんは俺の頭に手を乗せる。あぁ、こんな俺でも梨花ちゃんは慰め――

「圭一なんて、死ねばいいのです☆」

「ぐへっ」

 乗せられた手は髪を掴み、床に頭を押し付けごりごりされる。こ、これが梨花ちゃん

なのか? その笑みが邪悪に見える。

「ごべんばはい、ごべんばはい、ごべんばはい………」

 俺は土下座をするしかなかった。クズのように、そう、俺はクズなんだ。どこまで

いっても、ゴキブリのようなクズなんだ。

「大体、圭ちゃんは誤解される発言が多いんですよ」

 詩音が俺の髪を掴んで顔を上げさせる。うぅ、身体中が痛くて抵抗できない…

「俺の為に味噌汁を作ってくれだぁ? いつの時代のプロポーズだっつの! 圭ちゃん

もうちょっと乙女心ってものを知れっての! 分かったか、あぁ!?」

「え?」

 ちょ、ちょっと待った。プロポーズ? 何でそんな事に……





 プロポーズじゃん!!

 何だよそれ! 詩音の言う通りじゃねぇか! 良く考えてみれば何だその台詞!?

うわっ、寒! 寒すぎる! だからここまで怒りを買ったのか。俺が味噌汁飲みたいから

作ってくれなんて馬鹿みたいな理由からきた怒りではなかったのか。いや、それもあるか。

 うおおおおおおおおおお!! なんて俺はクズ野郎なんだ! くそっ、くそぉお!!

「ほら、レナからも言ってやりなよ」

 魅音が吐き捨てるようにレナに言った。…いや、もうボッコボコに殴られてるんですけど。

これ以上何か言われたら、もう俺…

「……圭一くん、反省してる?」

「は、はひ! ぞ、ぞればぼう(それはもう)!」

「ホントにぃ?」

 魅音は全く信用していない冷たい瞳で俺を見下す。みんなも軽蔑しきった目で俺を見る。

 い、いかん、信用を回復せねば! クールだ、クールな考えを導け、圭一!

「ぼんどうに、ばんぜいじてばず(本当に、反省してます)。ごれがらばびゃんど

がんがえでばづげんびばぶ(これからはちゃんと考えて発言します)。ばぶびば

ばばっばんべぶ(悪気はなかったんです)。ずびばべん(すみません)」

 本当なんだレナ! 俺1人じゃ家事なんてままならない、ましてや味噌汁を作るなんて!

だから俺は純粋な気持ちで、お前の味噌汁を飲んでみたかったんだ!

 届け、届け俺の気持ち! っていうか許してください! これ以上されたら……

これ以上されたら、死んじゃう!

「………いいよ。許してあげる」

「!!」

「甘いよレナ」

「そうですわレナさん。裏山に放置してもまだ足りませんわ!」

 くっ、黙れ魅音に沙都子!

「べば…(レナ…)」

 やっぱり、レナはいい奴だ…。こんなどうしようもない地球で一番最低な俺を…

「圭一くんがデリカシーの欠片も無くて、考え無しのどうしようもない男の子でも

まだ改良の余地があると思うから…」

 レナ……あの、一番きっつい言葉が出たんですけど。って、改良の余地?

「圭一くん。そんなに飲みたかったらお味噌汁、作ってあげる」

 な、何ですと!? レ、レナ…お前はなんていい奴なん―――

「但し、これからレナの言う事を聞いてくれたら…だけどね」



 レナから出された条件は、これまた新たな騒動を巻き起こす事になるのだった…




つづく




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