どうも、雛見沢では口先の魔術師と言われている前原圭一です。

 そんな俺ですが、昨日は親父達が仕事で東京に行ってしまい朝食で味噌汁を

飲めなかったばっかりに、レナに「俺の為に作ってくれ」なんて暴言を吐いてしまった

ばっかりにボコボコにされてしまった前原・クズ・圭一です。

 しかしレナはそんな俺を許してくれた。……条件付きで。


 そして、そんな波乱の一日が過ぎ休みの日。再び、波乱の幕開けとなるのか…




ひぐらしのなく頃に 味噌汁の変 第二話





「良しッ! よぉおおっし!! 完璧、完璧じゃああい!!」

 誰もいない家の中、俺は朝っぱらから大声を上げていた。何故休みの日だというのに

こうもハイテンションなのかというと、それには訳があった。昨日レナから提示された

条件をクリアする為、俺はある事で徹夜していたのだ。

「ふ、ふふ、ふはははははははっ!! これで俺は味噌汁マスターになった!!」

 パンツ一丁で俺は窓際に仁王立ちし、溢れんばかりの日光を浴びた。

 眩しい……雲ひとつない晴天が、俺を祝福しているみたいだ!!



 レナの出した条件、それは俺がちゃんとした味噌汁を作る事というものだった。それを

やり遂げた時、昨日の失態をチャラにしてくれるらしい。…ボコボコに殴ったのは

カウントされてないんだ。へ、へへ……



「ともかく! この条件さえクリアできればレナの味噌汁をゲットできる!!

おっと、熱くなってる間にもう10時前か。そろそろだな」

 時計を見ると同時にピンポン、と家のチャイムが鳴った。どうやら来たようだ。

「はーい、はいはい!」

 階段を駆け下り、俺は玄関まで走った。

「圭一くーん!」

 扉の向こうからレナの声がする。くくく、待ってたぜぇ!

「おっはよう! みんな!!」

 勢いよく扉を開けると、そこにはレナを筆頭に魅音、沙都子に梨花ちゃん、詩音が

いた。

 しかし、初めはみんな笑顔だったのに何故か顔を赤くする。…はて? みんなの視線は

俺の身体に集中している。俺も釣られて自分の身体を見ると……


みーんみんみんみんみんみんみんみーん…


 パンツ一丁じゃないか!!

「こ、これは違―――」


スパパパパパパパパパーーーーン!!


「ぐふおぉっ!!?」

 一瞬、目の前が真っ白になった。そして視界が戻ると俺は地に伏していた。か、身体が

動かない!? それに痛い、めっちゃ身体が痛い!!?

「す、すごいよ今のは……音しか聞こえなかった……レナ、腕を上げたね!」

「そ、そんな…別にすごくないよぉ」

 レナを褒めちぎる魅音。あの、そういう問題では…

「早く服を着てくださいまし! 見苦しいですわ!」

「で、でも……身体が…うご、うごかなくて…」

「ん〜? それじゃあ私が着替えさせてあげましょうか?」

 詩音がにやにやとしながら俺に迫る。ま、待て、お前、一体何を企んでいる!?

「そうだねぇ、こんな事もあろうかと用意してたんだよねぇ」

 妹に続いて姉も邪悪な笑みを浮かべて俺に近づく。手をわきわきさせて。

「い、いや……やめて、近づかないで……」

「だぁいじょうぶだってぇ。おじさん、優しくするからさぁ」

「私達に任せておけば何の心配もないですって」

 同じ顔が、同じ声を出して迫ってくる。怖い、怖い、怖いよおおおおお!!

「あ、だ、だめ、い……いやああああああああああ!!!!」

「制裁なのです☆」



「ぷっ、あはっ、あははははははっ!!」

「………」

 体力が回復した。が、同時に俺は恥辱を味わっていた。

 魅音達が俺に着せた服…お分かりの人も多いと思うが、メイド服だった。

「お、お腹が痛いですわ……ぷっ、あははは!」

「もうこれは犯罪ですね。…くっ、くくくくっ……」

「け、圭一くん、かぁいい……☆」

 もう、何とでも言って。

「さてと。圭ちゃんのメイド姿を拝んだ所で、本題に戻ろうか」

「あの、もしかして俺はずっとこの格好で……?」

「何を言ってるのですか圭一。愚問なのです☆」

 うぅ……これからは第一に自分の格好をチェックしておこう。

「圭一くん、ちゃんと勉強した?」

「おう、それはもうバッチリと!」


 説明が遅れたが、何故みんなが家に押し寄せてきたのか。ただ味噌汁を作れば

いいってもんじゃない。そこで悪知恵を働かせた魅音がレナの条件に乗っかって

俺の味噌汁作りを個人の部活として仕立て上げたのだ。…余計な事を。

 俺の作った味噌汁を、審査員のみんなが、そして審査員長のレナが判定を下し見事

合格となれば俺は晴れてレナの味噌汁を飲めるという事なのだ。


「じゃあ圭一さんのお手並みを拝見させて頂きますわ」

「へっ、そんな事言ってられるのも今の内だぜ!」

「ぷっ、くくくっ…」

 ビシッ、とみんなに指をさして言い放ったが、みんな笑いを堪える。く、くそっ!

こうなったら意地でも美味しい味噌汁を作ってやるぅうぅl!


〜40分後〜


「そぉぉらっ!! お待ちぃっ!」

「圭ちゃん違う。お待たせいたしましたお嬢様、でしょ?」

「これは罰ゲームじゃねぇだろうが!」

 くそっ、魅音め。ここぞとばかりにちくちくと……。

 俺は5人へ味噌汁を差し出す。するとみんなは少しばかり動揺を隠せずにいた。

「け、圭ちゃんにしては中々まともなお味噌汁ですね……」

「おじさん、どんなものが出て来るのかと思ってたよ…」

「匂いも中々じゃありませんこと?」

「みー☆」

 ふふふ、そうだろうそうだろう。

「………」

「レナ?」

 おかしい、レナだけ味噌汁を見てもみんなと同じ反応ではない。

「おいレナ?」

「あ、うん。…どんな味なんだろう、ちょっぴり楽しみ」

 何だ? まぁいいか。

「では、いっただきまーす!」

 魅音の掛け声と共にみんな一斉に味噌汁を飲む。さぁ、どうだ!!











「………微妙」

 長い沈黙を最初に破ったのは魅音だった。

「……え?」

 え、えっと………び、微妙? え?

「何か…何ともいえない……そんな味ですね…」

 詩音はそう言ってお椀を置いた。

「これならインスタントの方がまだマシですわね…」

 沙都子はいつもなら面白がるように言う言葉でも同情するような表情で言った。

「み〜。つまり、美味しくないのです」

「ぐはっ!」

 トドメの一撃を食らって俺の心臓は一瞬停止した。

 ば、馬鹿な!? 何故だ、俺のやり方は完璧だったはずだ! この、「とってもお料理

クッキング」という本に書かれていた事を完全にやったはずなのに!!

「ち、ちくしょお……何が誰でも簡単に美味しい味噌汁を作れるだ……くそぉっ!」

「圭一くん」

「レナ…」

 レナは少し同情めいた表情で俺を見る。

 はっ! もしかして、飲む前のあの表情は……こうなる事であろうと見抜いていたのか?

だからレナは何も言わずに…

「圭一くん、確かにお料理は手順を踏めばちゃんと作れる。…でも、それだけじゃ

駄目なの。それが何か分かる?」

「……いや、俺には…」

「ただ作ればいいんじゃない。お料理は誰かに食べて貰うもの。その人に美味しく

食べて貰いたい、そういう気持ちがなければ本当に美味しく作れないの」

 誰かに美味しく食べて貰いたい……か。

「レナはいい事言ったよ圭ちゃん。圭ちゃん、どうせこうすればいい、合格すれば

レナにお味噌汁作って貰える、とか邪な考えで作ってたでしょ?」

「う…それは、否定できないな」

 そこまでは考えてなかった……。ただ、信用回復と味噌汁目的で作ってたばかりに

一番大切な事を隅に追いやっていたんだ俺は。

「圭一くん、レナがどうしてこんな条件を出したか分かる? 圭一くんは人の気持ちを

あまり考えない。それを直すにはどうしたらいいか? そこでこの条件なの。お料理を

通じて、人の気持ちを考えるようになればいいなって」

 そうだったのか…この味噌汁作り、そこまでの意味があったのか……本当に、俺って

奴は……考えが足りない…。

「でも、これじゃあ圭ちゃんあんまりですね。ボコボコにされて、メイド服着せられ、

あげくの果てに不合格ときたら…。ま、自業自得なんでしょうけど」

 ちょっとムカつくけど、詩音の言う通りだ。自業自得なんだ、全部。俺は大の字に

なって床に寝転んだ。

「…この一件で身に染みたよ…。俺、もっと自分を見直す必要があるみたいだ……」

「圭一くん…。ね、ねぇ、分かってくれたのならお味噌汁、作ってあげるけど…」

「レナ……」

 あんな暴言を吐いても見限らないでくれて、そして不合格になったのに優しさを

与えてくれる……。レナ、お前…なんていい奴なんだ……

 でも、だからこそ……

「いや、いいよ。今の俺に、レナに味噌汁を作って貰う権利なんてない」

「そう…」

 レナはちょっと残念そうに俯いた。

「その代わり、時間をくれ」

「えっ?」

「もう一度チャンスをくれないか? 次こそ必ずみんなを喜ばせる味噌汁を

作ってみせる!! だから、俺にもう一度だけチャンスをくれっ!!」

 恥も何もかも捨て、俺は土下座をした。

 すると俺の肩に手が乗せられる。

「圭一くん、頭を上げて」

 頭を上げるとレナが優しく微笑んでいた。

「しかし…」

「そうそう、男が簡単に頭を下げちゃ駄目だよ」

「もう1回。それでよろしいんですのね?」

「圭ちゃん、ここが男の見せ場ですよ」

「頑張るのです、ふぁいと、おーなのです」

「みんな…」

 くっ……まったく、みんないい奴だぜ。俺はこんな仲間を持てて幸せだ。

「圭一くん、見せてもらうよ。圭一くんがどれだけ頑張れるのかを」

「おう!!」


 そして、俺の戦いが始まった。馬鹿でどうしようもない俺を変える為の戦いが。




つづく




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