いよいよだ。いよいよ、運命の日がやってきた。

 デフォルトで朝パンツ一丁だった俺は興奮しっぱなしで朝ご飯味噌をそのまま貪って

しまった。それはもうむしゃむしゃと。

 味噌汁判定は放課後、俺の家で行われる。

 朝、レナ、魅音と共に学校へ歩む。その道を人は後にこう呼ぶだろう。



 味噌汁の道、ロード・トゥ・味噌汁と…






ひぐらしのなく頃に 味噌汁の変 第四話






「よーし、遂に来たね!」

 今日最後の授業が終わり、いよいよ放課後。魅音の言葉と共にみんな集まってきた。

「をーっほっほっほ! 圭一さんがどれだけ腕を上げたのか確かめてもらいますわ!」

「お前、そればっかだな」

 しかし緊張してきた。いや、弱気になるな圭一。燃え上がれ圭一!

 お前は出来る子、やれば出来る子! 味噌汁に選ばれし漢だろう!

「っしゃぁあ! 行くぞお前ら!! この3日間の全てを食らわしてやる!」

「「おーー!!」」



「はろろーん。圭ちゃんの悪あがきを見に来ましたよー」

 俺の家にみんなで行く途中、詩音が合流してきた。まるでタイミングを見計らったかの

ように登場してきたのにはちょっと疑問を抱くが、そんな事はどうでもいい。

「それにしても……」

 沙都子が鼻をつまんで俺を見る。

「圭一さん、昨日お風呂入りましたの? なんかお味噌臭いですわ」

「えっ? マジで?」

 今更ながら身体の匂いを嗅いでみる。すると何やら香ばしい匂いがしてくる。

「おお!? なんと素晴らしい!! 俺は体臭すら味噌になったのか!」

 凄い、凄いぞ俺! まさかここまで到達してしまうとは!! 幸先がいいぞこれは!

「うわー……お姉から聞いてましたけど、ここまでとは……」

「あは、あはははは………はぁ…」

 誰かの溜め息が聞こえたのは多分気のせいだろう。うん。



 家に到着すると俺は真っ先に台所へ足を運ぶ。

「ハァ、ハァ……味噌ちゃん、今から美味しく作ってあげるからねぇ〜」

「け、圭ちゃん……」

「だ、大丈夫だよ魅ぃちゃん、大丈夫……多分」

 何故かみんな引いていくのは俺の気のせいだろうか? 気のせいだろう。

 さて、集中集中。

 まずは味噌汁作りの工程を頭の中で再構築。既に暗記と言うレベルを通りこして身体全身に

味噌汁作りの事を書きこんだ俺は最早考えなくても身体が動く。味噌を掴み、口に放り込み

咀嚼してから味噌の気持ちを身体に染み込ませて作り始める。味噌の声を聞き、味噌の感情

を紐解いていく。これこそ、味噌汁作りの最重要項目!!(嘘です)

「す、凄い…圭ちゃんの手の動き、まるで無駄が無い!」

「たった3日でここまで…圭一くん、流石だよ」

「圭一、ただの味噌変態ではなかったのです」

 当然、味噌だけで味噌汁は成立しない。

 ネギ!

 わかめ!!

 豆腐!!!

 この三種の神器がなければ味噌汁はただの味噌の汁と化す。ここのフォローも完璧。

俺は味噌汁の頂点に立つ漢だからな(?)

 そして最後の隠し味、気持ち!!

 みんなに届け、俺の気持ち!! 美味しく食べてくれという気持ち!!

「あれ、圭ちゃんですよね? 3日前、おぼつかない手つきで味噌汁作ってたあの」

「そうなんだろうねぇ……」

 さぁ、友よ! 最高の味噌汁へと昇華せよ!! 俺と、お前とで作り上げたこの

最高の味噌汁が不味い訳がない!!

 さぁ、さぁさぁさぁ!!

 美味くなれぇえええええええええええ!!




「ハァ、ハァ、ハァ……」

 出来た…。これこそ、今俺に出来る究極で至高な味噌汁……しかし、これを作り上げた

事により俺の体力は激しく消耗していた。

「お疲れ様、圭一くん」

「あぁ…出来たぞ…俺の、魂の結晶が」

 レナに手渡された濡れタオルが気持ちいい。消耗しきった身体に鞭打って俺はテーブルに

味噌汁を並べた。

「「おぉ〜〜」」

 みんな、驚嘆の声を上げる。

「こ、これは……」

「へへっ、どうしたよ沙都子。褒めてもいいんだぜ?」

「ふ、ふん! 圭一さんにしては上出来じゃありませんこと?」

 そっぽ向いて沙都子は言った。ふふふ、その反応がこの味噌汁がいいって事を

表しているぜ。

「でも、見た目だけじゃ分からないのです。見た目に騙されるな、です」

 うぐ。り、梨花ちゃん…。もしかして、前に見た目に騙された事あったの?

「そうだね、まずは飲んでみない事には始まらないね」

 魅音の一声と共にみんなは一斉に味噌汁を飲んだ。さぁ、今度こそ…!!





「美味しい……」

「そんな…馬鹿なですわ!!」

 魅音は呟き、沙都子は悔しそうに叫ぶ。すると詩音が立ち上がり俺の両肩を掴む。

「あなた、本当に圭ちゃんですか!?」

 がくがくと身体を揺さぶって詩音は訳の分からない事を言ってくる。

「そ、そうだって。お前、今おかしな事言ってるぞ!」

「そんな…」

 がくりと詩音はその場でしゃがみこむ。信じられないもの事実に驚愕するように。

というか、どうなんだ? 美味いのか、不味いのか? その反応だとよく分からんぞ!

「ぱちぱちぱち」

「梨花ちゃん?」

 手を叩きながら口でぱちぱちと可愛らしく梨花ちゃんは笑顔でいた。

「圭一、やったのです。本当に美味しいのです。にぱー☆」

「お………おおおおおおおおおおおおおおおっしっ!!」

 その一言で俺は手を握り締めガッツポーズをとった。

 やった、俺はやったんだ!!

「圭一くん」

 審査員長のレナは箸を置いた。そうだ、まだレナの評価を聞いていない。

「このお味噌汁、まだ荒削りな所はあるけれど…」

 少し間を置いて、レナは顔を上げて……

「うん、美味しい。とても美味しいよ、圭一くん」

「レナ………」

 その微笑みは、俺の涙を誘った。

「う、うおおおおおおおおおおおっ!! 男圭一、一つの事をやり遂げたぁぁぁ!!」




「と、いう訳で」

 さっきの涙は嘘だったかのように俺は冷静になってレナと面向かった。

 そう、これで終わりではないのだ。むしろこれから始まるのだ。

「レナ、味噌汁を作ってくれ」

「うん、いいよ。レナのでよければ」

 そう言ってレナは味噌汁を作り始める。味噌汁の材料ならまだ腐るほどある。レナは

慣れた手つきで作っていく。今の俺なら分かる。レナは……出来る!

「いやぁ、しっかし圭ちゃんがあれだけの物を作れるとはねぇ。こりゃいいお嫁さんに

なれるよ」

「「俺の味噌汁を毎朝食べてみないか?」って感じでですか? あっははは!」

「てめぇら姉妹揃って好き勝手言いやがって!!」

 レナが味噌汁を作ってる間、俺達はそうやって騒いでいた。


「はーい、出来たよー」

 十数分が過ぎ、レナの味噌汁が出来上がった。香ばしい匂いがしてくる。

「みんなの分もあるから、飲んでみて。…でも、圭一くんのが出た後じゃちょっと

物足りないかもしれないけど」

「そんな事ないって。じゃあ圭ちゃん、お先にどうぞ」

「おう!」

 さて、待望のレナ味噌汁……俺の作った物と、どれだけ違うのか……


ずずっ














「うーーーーーーーまーーーーーーーーすーーーーーーーぎーーーーーるーーーー!!」

 俺は溜まらず窓を開け、大声で叫んだ。いや、叫ばずにはいられなかった。

 う、美味い!! なんだこの味噌汁は!? 味噌汁なんてどんなに美味しく作ったとしても

所詮味噌汁と侮っていたが、ここまで美味しくなるものなのか!? レナ…恐ろしい娘…

 みんなも俺の反応を見てすぐに味噌汁を飲む。すると…

「えぇぇ!? な、何なのこれ!?」

「これ、圭ちゃんと同じ材料で作ったんですよね!?」

「さ、流石はレナさんですわ……」

「参考になるのです」

 俺を含め、みんなただただ驚くばかりだった。これが、毎日料理を作る者とだらけた男の

差だというのか!?

「そ、そんな…みんな大げさだよぉ」

「いやいや、そんな事ないって! レナ、おじさんのお嫁さんになってよ!!」

「何言ってるんですか。当然私のとですよね、レナさん?」

「え、えぇ!?」

 突然園崎姉妹がそんな事をほざく。……お前ら、正気?

「駄目ですわ! レナさんは私と梨花のお嫁さんになるのですわ!」

「ボク達のものになるのです☆」

「は、はぅ。…二人がレナのモノになるのなら考えても……」

 沙都子と梨花ちゃんはかわいこぶってレナをたぶらかす。レナ、犯罪だぞそれは…

 しかしレナの味噌汁はそれ位に攻撃力があった。これを防ぐ防御力を俺達はもって

いなかった。

 確かに俺もレナの味噌汁を毎朝飲んでみたいと今本気で思ったほどだ。

 しかし、しかしだ……














 なんか、面白くない



「け、圭一く〜ん。た、助けて〜」

「………」

「圭一くん?」

 この3日間、味噌と共に過ごし、味噌汁作りに精を出してきた。

 しかしレナはその3日間すらものともしなかった。

 いや、分かっている。こんな事を思う事は馬鹿だと。人の気持ちを考える事が

この味噌汁作りの本来の意味だったはずだ。それを俺は……

 だけど、俺は……俺は!!

「レナ…」

 やめろ…まだ間に合う。だからこんな馬鹿な事は止めるんだ。

「圭一くん?」

「レナ、レナの味噌汁、本当に美味しかった。感動した」

「そ、そうなんだ。でも感動はちょっと大げさなんじゃ…」

「いや、感動した。毎日作って欲しいとか思った」

「え、えぇ!? そ、それは、どういう意味なのかな、かな…」

「でも…」

 もう止まらなかった。もう、後戻りはできない。

「でもな…やっぱ俺、馬鹿みたいだ…」

「?」

 そして俺はレナに人差し指を向けて言い放った。



「レナ、俺と味噌汁勝負をしてくれ!!」

「……………え?」


 みんなして目を丸くしたのは言うまでもなかった。


つづく




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