「なぁ亀田くん。幸せってなんだろうな……」

「どどど、どうしたんすかKぇええええええい!!?」


 エンジェルモートで何故か亀田くんと同じ席でデザートを食べていた俺はつい呟いてしまった。俺

の言葉に亀田くんは戸惑いの表情で身を乗り出してくる。…この上なく暑苦しい。

「Kさん! 溜め息吐いて黄昏るなんてKさんらしくないっすよー! 一体何があったんすかー!?」

「えぇ? 君に相談しなきゃいけないの?」

「当たり前じゃないっすか! それとも、俺らの友情はその程度のものだったんすかー!?」

「ええい! 静かにせんか亀田!」

「ごっ、がっ、ぐはあっ!」

 俺はジャンプ強K、しゃがみ中K、波○拳のコンボで亀田のアホを黙らせた。

「かはっ…さ、流石っすねKさん! でも俺も野球で無駄に鍛えたこの身体―――」

「あぁ、はいはい。分かった分かった」

 これ以上やると亀田くんに余計な属性を付加させる事になるから止める事にした。

「じゃあKさん、このスク水少女達(ただのケーキです)を舐め回しながら話してくださいよ」

「フ…亀田くんも好きだな。じゃあ俺はこのスク水少女(ケーキです)を……じゃなくて」

 危ない危ない、亀田くんのペースに乗せられる所だった。

「じゃあ話す。……そうだなぁ、あれは一昨日だったか……」





ひぐらしのなく頃に 味噌汁の変 第七話







「亀田くんはレナを知ってるよな?」

「レナってあの子っすよね? 「はぅ〜☆」とか「かぁいい☆」とか「お持ち帰りぃ〜☆」とか

言ってるちょっと変わった子ですよね?」

 ……まぁ、レナってかぁいいモードを見た人だとインパクトあり過ぎでそういう風に見えるよな。

変わってる事に全く否定できない所が悲しいというかなんというか。というかお前に人を変とか

言う資格はねぇ。

「訳あって俺、最近最強の味噌汁を目指して日々努力してるんだけど――」

「Kぇえええええええええええいいいいいい!!」

「な、なんだ!?」

 いきなり亀田くんが奇声を発する。なんか泣いてるし。ちょっとウザい。

「ど、どうして味噌汁なんすかー!? どうせならデザートを作りましょうよ〜!!」

「いや、それは話すと長いけど…」

「Kぇぇえい!! 分からないんすかぁ!? デザートを作れるようになれば、自分の手で

どんな女の子もよりどりみどりなんすよぉっ!?(くどいですが、少女はデザートの事です)

自分の手で思い通りの少女を創造できるんすよぉおおお!? ハァ、ハァ、ハァッ!」


ざわ…


「そこまで堕ちたか亀田ァアアアアアアアアア!!!」

「ぐはぁっ!!」

 愛なき鉄拳を亀田の屑野郎に食らわせる。ここで止めたのは正解だった。これ以上いけば

俺もブラックリストに載りかねない。

「な、何するんすかKさん!」

「この妄想戦士が! 俺はお前をそんな風に育てた覚えはない!! いいか!? 自分で

思いのままの理想的な少女を創り出す事など言語道断! そんなのは鬼畜の所業! 少女は

自然なまま育つのが一番!! 自分の思い通りにならないからこそ面白いのだ! それを貴様は

自分の手で思い通りの少女を創造だぁ!? 勘違いも甚だしいわ!!」

「す、すいませんっす!! Kさん…俺…俺…!!」

 俺はすすり泣く亀田の肩に優しく手を置いた。

「分かればいい。分かれば。人は、過ちを乗り越えてこそ成長するのだ。そんな貴様にはこの

体操服ブルマー(杏仁豆腐)が相応しい」

「はいっ!! 戴きます!! ハァ、ハァ、この寒天がなんとも……くふふ!」

 改めて思うけど……こいつ、気持ち悪ぃ…



「話が脱線し過ぎたが、戻すぞ」

「え? 何の話でしたっけ?」

 こいつ……てめぇで話を聞こうとして、てめぇで脱線させといて、てめぇで忘れてやがる。

「俺、最近最強の味噌汁を目指して日々努力してるんだけど……」

「え?」

「日々努力してるんだけど!」

「は、はぃぃ!!」

 俺は強面の人ですらビビる眼光を亀田君に向けた。亀田くんは理解したようで俺に話を

続けさせた。

「レナは俺よりも数十倍もの手腕の持ち主で、行き詰った俺はレナに色々教わろうとしたんだ…」




〜一昨日〜


「なぁレナ」

「何かな、かな?」

 帰り道、魅音と別れて二人だけになった時で俺はふと思いついた提案を出す。

「もし良かったらだけど、この後俺んち来てくれないか?」

「え………えぇぇぇっ!? そそそ、それはどど、どういう意味なのかな、かな!?」

 レナが頬を赤らめて興奮気味に聞いてきた。こ、こいつ、何想像してんだ!?

「お、おい、お前絶対違う事考えてるだろ!? 違う違う、そういう意味じゃねぇ!」

「そういう意味じゃないって、どういう意味なのかな、かな?」

 ぐっ…顔赤くして上目遣いで見やがって…男はそういうの弱いんだよ。っていうか何この

食いつきの良さ? たまに思うんだけどレナってこっちの話好きなんじゃないのか?

「ば、馬鹿野郎。そっからは諸々の事情で投稿できなくなるから言えません」

 そう言うとレナは少しがっかりした感じで肩を下ろす。がっかり? しかしすぐ復活して

また聞いてくる。

「じゃあ何なの?」

「あぁ、ちょっとレナに味噌汁について聞きたい事があって………って、何だ? 何故更に

肩を下ろす?」

「…ううん、何でもないの。しっかり、しっかりしなきゃ駄目、レナ」

 最後の呟きはよく聞こえなかったがまぁいい。

「んで? OKなのか?」

「うん…いいよ。何だったら今日は圭一くんの家で夕御飯食べようかな?」

「………ん?」



 ちょっと待て? 今、レナはナントイッタ?



「お、おいおい、レナよ。俺の家って…親父さんはどうするんだよ?」

「お父さん今日飲み会で遅くなるみたいなの。家で一人で食べるのもなんだし、圭一くんに

お味噌汁を教えるついでに一緒にって感じで…。……駄目、かな、かな?」

「え…あ、その……ん……」


 何だ? 何だこの急展開は? はっ、まさかこれは巧妙に仕組まれた罠!? ドキドキものの

イベントの裏に待ち構える鬼や狸達の陰謀!?

 いやいやいや、待て待て、待てよ圭一。落ち着けって圭一よ。別に二人きりではない。

父さんも母さんも一緒なんだぞ? それで母さんが「新婚さんみたいね☆」とか冗談かまして

ほのぼのな夜が過ぎるだけなんだ! 決して、決していざ帰ってみたら父さんの仕事で家を

空けているというベタなオチになる訳がない! それはそれでレナと二人きりでちょっと甘ーい

イベントが起こっちゃったり? い、いやいや、だから落ち着けって圭一、これじゃあ少年漫画の

恋愛ものの主人公の勝手な妄想と一緒だぞ!!


「あの…圭一くん? どうしたの?」

「はっ!」

 俺は何を暴走していたんだ。くそっ、レナめ。俺が誘ったのにこんなカウンターを浴びせて

くるなんて流石だぜ。へへ、上等じゃねぇか。この勝負、受けてたつぜ!(?)

「お、おう、いいぜ。何なら泊まってってもいいんだぜ?」

「は、はぅ! けけ、圭一くんの家にお泊り……は、はぅ〜〜!!」

 始まった。俺も動揺させられたんだからこの位の仕返しはいいだろう。

「じゃあ、じゃあ、すぐ家に帰って用意してくるね! す、すぐ行くからね!」

「おう、そんな急がなくても……あーあ、行っちゃった」

 レナの奴、嬉しそうだったな。いつも楽しそうだけど、今日はそれに輪をかけてだ。

「ま、楽しそうでなによりだ。よーし、レナに味噌汁の極意、教えてもらうぞー!」

 意気揚々と家に着くと何やら様子がおかしい。何だ? 何か張り紙が玄関のドアに……





〜圭一へ。父さん、急な仕事で母さんと一緒に東京行くから。留守番よろしく。

               ps.父さん達がいないからって女の子を連れ込んじゃ駄目だぞ☆







 そんな馬鹿な。


「う、嘘だろ? なぁ、嘘だって言ってくれよ!! だってつい最近も東京行ったじゃん!

何がそんなに忙しいのさ父さーーーーーーーん!」

「圭一くん、お待たせ!」


 早!


「レ、レナ!? お前どんだけ早いんだ―――――」

 俺は目を疑った。レナが漫画みたいな大きいリュックサックを背負ってるのだ。あれは……

も、もしかして……

「あ、これ? そ、その、お泊り用の寝袋とか、その他色々……」




 泊まる気だ!



「お、お前、本気にしてたのかよ!」

「えっ?! あれ、嘘だったの?!」

 ぐあ……なんだよこれ。ダブルコンボじゃねぇか。

 オヤシロさま……あなたなのですか? あなたが仕組んだことなのですか!?

 ぐっ…しかし、味噌汁の極意も教わりたいし、いやしかし、しかしだ。これはいかん、いかんぞ、

まだ早い、早すぎるぅぅ!! 若い男女が一つ屋根の下でやる事と言えば………ハァ、ハァ!

「ぐおおおおおおおおおおおおお!!!!」

「け、圭一くん!?」

 もういい、開き直れ圭一! 何が起ころうとも、それは、それは……!!

「やる事と言えば味噌汁作りぃいいいいいいいいいいいい!! うおっしゃああああああああ!!

やるぞレナああああああああああああああああ!!」

「え、えぇっ!? ちょ、圭一く〜ん!」







「…とまぁ、こんな感じでな」

「………」

「亀田くん?」

 とりあえず前半部分で一息入れるのだが、なんか亀田くんはプルプルと震えて俯いている。

控えめメイド少女(デザート)の食いすぎで腹を痛めたのか?

「おい、大丈夫か?」

「け、け、Kぇええええええええええい!! な、なんなんすかぁ!? なんなんすかぁ!?」

「うおおっ!?」

 身を乗り出す亀田君に俺は驚いて身を引いてしまった。しかも泣いてるし。

「そんな苺パフェのように甘い回想を聞いて俺はどうすればいいんですかー!? う、羨ましい…

羨ましいっすーーーー!! もうKなんて知らないっすー!」

「まぁ待て亀田! というか君が聞きたいから話してるんじゃないか!」

「うおおおおおん! 俺には、俺にはこの魅力的な少女達(ケーキです。もう書くのめんどくせ)

がいるっすー! う、羨ましくなんてないっすー!」

 あらら、完全にグレてしまった。まぁ亀田くんの気持ちも分からんでもない。蓋を開ければ

女の子と楽しい一時な話なんだもんな。俺でも他人ののろけなんて聞きたくもねぇし。

「スーパーDXジャンボパフェ、お待たせしましたー☆」

「うおっ!? な、なんだこの超がつくほどの巨大なパフェは!? 器だけでテーブルを占拠

してしまう―――って、詩音!?」

「はろろーん☆ お味噌汁判定以来ですね圭ちゃん」

 何故かにやにやとした感じで詩音はジャンボパフェをテーブルに置いた。ドスンッ、と音したぞ

ドスンッ、て!

 くっ、その身体の何処にそんな力が……その身体……ご、ごくり。さ、流石は鬼の血脈って

所だな、うん。

「うおおおおおおおおっ!! こうなったらヤケ食いっすーーー!!」

「頼んだのはお前か!」

「いいえ、私のささやかなプレゼントです♪」

「何ぃ!? こ、こんなんどう考えたって高いだろ!?」

「店内を騒がしているんですから、この位の貢献はありませんと」

 くっ……亀田…この借りは高くつくぞ。それにしても恐ろしきは詩音よ。罰と店の利益を

兼ね備えたいい案だ。

「よいしょっと」

「? おい、何で俺の隣に座るんだよ」

「何でって、今休憩ですから」

 いや、そんな当然のように言われても。控え室で休めよ。

「え〜? だってぇー、さっきの話の続き私も聞きたいですしぃ〜♪」

「えっ?」

 この先を聞きたいだと? い、いや、ちょっと待て。亀田くんはまだ男だから話せる。しかし

女の子である詩音に話すにはちょっと恥ずかしい……

「お姉はちょっとかわいそうですけど、私も女ですし? こういう話好きですもの」

「なんで魅音がかわいそうなのかは分からんが、そうは言ってもなぁ……」

 すると詩音は懐からある物を取り出した。それは……

「そ、それは、デザートフェスタのチケット!!」

「圭ちゃんが話してくれるんだったら、差し上げてもいいんですけどねぇ? 話したくなければ

これは他の誰かに――――」

「話させてください!! いえ、話をさせてください!!」

「そうこなくては♪」

 デザートフェスタのチケットが貰えるのだったら話は別だ! 話してやろうじゃねぇか!

 わくわく顔の詩音に俺はその後の事を話すのだった。


つづく




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